俳優の青沼かづま氏にインタビュー(その4)

「父と暮せば」の時のこと。

ナガノ:この作品、もう十数年も、再演を重ねてきましたね。

青沼:大好きな作品です。
大小さまざまな劇場で、何人もの個性的な素敵な女優さんに、娘役になっていただきました。
ここでも、自意識を離れるありがたい経験をもらいました。

ナガノ:ダブルキャスト、トリプルキャストもありましたね。新人の方も多く挑戦してくださいました。

青沼:ある時、僕とダブルキャストだった父親役の俳優さんが忙しい方で、稽古になかなか出られない時があり、毎日のように四人の女優さんと稽古しました。これはいい体験でした。
結構小道具があるので、二人しか出ない芝居で初めての主演で出ずっぱりで、いっぱいいっぱいになっている新人女優さんの小道具も手伝ったりして。

そうしていると、何かほんの少しですが娘を守り育てる父親の気持ちみたいなものが芽生えます。それが父親の感覚と繋がり、とてもよかったです。
そして何と言っても、こまごまと作業をしていると、自意識から離れることができました。
これは大きな発見でした。

そして他を想い、心配すると、自分のこころが豊かになる。大変だったけど幸せな時間でした。
あの体験から、本番前はなるべく自分の準備を早めに済ませて、何かできることはないか、困っている人はいないかと、ほかの俳優の準備の手伝いや、スタッフの手伝いをこまごま探して動き回るようになりました。緊張してる暇がない、って感じ、でしょうか。
自分を二の次に置くことで、自分を守る心のこわばりから自由を得ることができました。

自意識を離れるということは、舞台においてどんなに大切なことか。
誰でも自分はかわいいし、どう思われているかとても気になる。
けれども、このセリフはどういうことが正解か、どういうリアクションが正解か、という「真実味を持った正解」を求めて自意識から逃れられずにいると、相手のセリフがどんなにいいセリフでも、聞こえてこない。
心で聞くことができないんです。
相手役がどうであれ、自分のやり方で固定していく。
今を生きる舞台芸術はその時、死にます。

ナガノ:それにしても、4人の娘役と「今を生きる」って、具体的にどうしたのですか?

青沼:それはそれは、楽しく大変な道です。
相手が違っても、自分で決めた動きやリアクションで同じことを繰り返すなら、楽かもしれませんが、飽きてしまうかもしれませんし、もったいない。
そして、自分がやりやすい相手でないときは支配したくなったり、不満に思ったり、心の中で嫌なものが動きます。それをやめて、相手を変えようとするのではなく、常に新鮮にその人を娘だと感じて自分を変えて、一回生起として受け止めていく訓練になりました。楽しくて、ドキドキしました。
受ける影響が違うので自分もイキイキしてきて・・・若い女性たちだったし・・・

ナガノ:なおさらですね。
それにしても一日同じ役で、同じシーンで、相手が4回変わって、その都度、柔軟に受け止めていくには、心の力も必要ですね。
判で押したように同じリアクションをしていたら楽かもしれませんが。

青沼:モスクワ芸術座のカリャーギン氏から影響を受けたことが大きいかな。次はそのお話をします。

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