柴田 昭さんへのリレーインタビュー

『文学フリマ』事務局代表の望月倫彦(ともひこ)さんからのリレーインタビューは、株式会社ミネルバ代表の柴田 昭さんです。

14歳の頃からずっとミュージシャンになることだけを目指して生きてきた柴田さんは、26歳のある日コスプレに出会ったことで人生が一変してしまいました。

柴田さんは、そんな大事なコスプレを「コスプレという遊び」と言います。
人生を変えたコスプレを“遊び”と言いつつ、そこにビジネスの真髄を見出そうとしています。

一見、矛盾とも思えるお話しの中に、社会の歪と心のありよう、仕事の本質を垣間見ることができます。私にとってはまたまた別世界のことだらけですが、別世界の中にどのような楽しみがあるのか興味津々です。(聞き手:昆野)

――コスプレとの出会いは衝撃的だったんですか?

柴田 昭さん:かなりの衝撃でしたね。驚きました。

――どういう感じの衝撃でした?

柴田 昭さん:音楽で食っていきたいと考える場合、音楽自体を楽しむことを優先している人がすごく多いですが、私は音楽で生計を立てていきたいという目標をもってずっと取り組んでいました。自然と同じ考えの人が周りに増え、周囲の人たちも音楽を仕事にして創作活動を行い、ご飯を食べていこうと考えていたため、いつしか音楽自体を楽しんでいる人が身近にあまりいなくなっていました。
そんな中、26歳のある日、私は“コスプレという遊び”に出会いました。
そこにある眼前の世界は、遊んでいる人たちの99%以上が趣味として楽しんでいる世界でした。それを仕事にしようなんて人は周りにいない。そこは自分がこれまで知らなかった世界であり、こんなに楽しい世界があったのかというのが一番の衝撃でした。

――イベントに参加しているコスプレユーザーや、仕事で関わっている人たちみんなが楽しそうだったんですか?

柴田 昭さん:そうです。おカネをもらう側と、おカネを払って楽しむ側の境い目が曖昧な世界に見えました。当然おカネをもらっている側は目に見えない努力をしているし、本来であればもらう側・払う側にはきちんとした垣根がなくてはなりませんが、そこにはそれはない。当時の私にとってその境い目が曖昧なことがとても魅力的に感じました。

――それまで目指して来たミュージシャンから、一気にコスプレの仕事に切り変わった感じですか?それともじわじわと?

柴田 昭さん:半年間ほどユーザーとして遊んでいたんですが、その後仕掛ける側になってみようと思い小さなイベントを主催してみたら、「自分がコスプレによって、人に居場所を提供できる」ということを実感できました。
そこでそれまでの音楽仲間に、自分は一度音楽や創作活動を休止すると伝えました。そこからこれ一本で来ています。

――イベントはどういうことをするんですか?

柴田 昭さん:私たちはCOSSAN(コッサン)という名称のイベントを開催していますが、それはコスプレを趣味としている方々の居場所を提供するものです。年間80~100回程度開催していて、行政や商店街と一緒にコスプレをしたい人たちをその街に集め遊んでもらうというものです。
遊び方はそれぞれですが、メインとしてはコスプレユーザーの世界観に則って、その日その時その人たちにしかできない写真を撮影して楽しんでもらいます。2つ目は、参加者同士は一目見れば、好きなアニメや特撮、音楽が自分と一緒かどうかわかるので、自ずと新たな交流の場が生まれます。3つ目は、参加者がその街に住む人たちや商店街の方々、たまたま通りがかった人たちとの出会いを楽しんでもらうことです。
参加者が交流を通して楽しめることと、その街の経済効果に貢献できればいいなと思っています。

――街をフィールドにしたイベントなんですね。行政や商店街とともに経済効果を狙った仕掛けが必要になるでしょうね?

柴田 昭さん:行政とのやり取りは多いですね。地域活性化等の社会的な活動として受けとめてもらうことで、行政が後援・協賛者になってイベントを開催することが多いです。
予め行政や商店街の方々にお願いしていることは、コスプレで集まる人たちに対して普通の人たちと同じように接してほしいということです。その点は徹底的に周知します。そこに人が集まりおカネが流れ込んで来ることに期待し、備えてもらうことで、私たちのユーザーが不自然ではないカタチで遊べるようにすることが、事前準備で最も重要なことです。

――大都市での開催が多いんですか?

柴田 昭さん:特に力を入れているのが関東圏ですが、名古屋、大阪、福岡、仙台、また現在札幌と協議を進めています。

――札幌は札幌市とですか?観光や地域おこしが目的ですか?

柴田 昭さん:そうです。行政と進めています。現在、日本の多くの人たちが2020年をマイルストーンとされていて、その中で非常にコスプレに関心を示されています。
私たちも2020年以降、コスプレという遊びをどうやって今以上に周知し、多くの人たちに楽しんでもらえるかを考えて取り組んでいます。2020年までに多くの街でコスプレが認知され、私たちのサービスが定着している。2020年以降もユーザーが安心して楽しめるように残していくことを、色々な方々にご説明しています。

――イベントの開催地に地元コスプレーヤーがいないと、イベントの機運も高まらないのではないかと思いますがどうですか?

柴田 昭さん:そうなんです。現在コスプレ人口は90万人と言われています。3つのタームがあって①毎週あるいは月に数回、コスプレ専用の撮影スタジオに遊びに行くヘビーユーザー、②年に数回コミックマーケット等に行く人たち、③コスプレで出かけたり遊ぶことはないが、家でコスプレ写真を撮ってSNSでアップする、いわゆる“宅コス”と言われるライトユーザーがいます。
90万人というとてもニッチな市場であり、その街の人口に比例してユーザーがいる。さらに90%以上が若い女の子なので、自ずとフィールドは都会がメインになります。だから各地域の地元のユーザーが主なターゲットになります。ほぼ地元の方しかいないというのが現状なんです。
その中で私たちが掲げていることは「地産地消」です。地方それぞれの特色を活かすために、必ずスタッフには地元のコスプレーヤーの方に入ってもらうように努めています。そうすると地元コスプレの特色がわかってきます。事前に開催予定の街に行って、若い女の子が喜びそうなお店を紹介したり、コスプレでお店に入る許可を取って下打ち合せを徹底的に行ないます。
ですからCOSSANでは、フランチャイジーのイベントを地元で開催してくれる方を募集しています。

――90%以上が若い女性なんですか。

柴田 昭さん:時代とともに、その割合が高まっています。90年代半ばから2000年代初めは男女半々くらいでしたが、私がこの世界に関わり始めた2006年頃は女性80%、いまでは90%以上に推移しています。

――ご自身もコスプレをされるんですか?

柴田 昭さん:この仕事をする前の半年間だけやりました。その後は、“楽しんでもらう楽しさ”に夢中になっています。

――コスプレをやっている人は、それぞれの心に変化が生じているのでは。普段の自分とは違う自分が現れる、自分の中に新しい自分を発見するなど、何か心理的な作用が働いているんでしょうね。

柴田 昭さん:大いにありますね。十人十色の楽しみ方がありますが、多くのユーザーの中にある心理としては、その日の自分の好きなキャラクターになることで、そのキャラクターの視点でものを見ることができ、友だちからそのキャラクターとして見てもらえるという、ある種の非日常感というか自分にはないものを感じるのだと思います。

――なるほどですね。やはりここでも非日常という言葉が当てはまるんですね。

柴田 昭さん:ユーザーにとっての非日常感であり、その人たちが愛するキャラたちにとっての日常感ですね。

――そうですか…。

柴田 昭さん:そう思います。コスプレがアニメ・マンガの世界に飛び込んでいく非日常的であるなら、街という日常の場所でユーザーが体験する居場所を創っていく。
私たちの仕事は非日常と日常を結ぶことだと言えます。日常は街にあり、非日常は参加するユーザーの体験の中にある。非日常で安心して遊ぶためには、日常という風景が必要になる。日常の中で刺激を得るためには、非日常の体験が必要になります。
そういった空気づくりをバランス良く行うことで、ユーザーたちはエンジョイ出来ます。イベントがあるからユーザーたちがイベントの次の日に仕事や学校を頑張れるようになったりします。日常と非日常、この2つの結びつきがとても大切です。私たちのサービスの本質は体験です。もっともっといろんな体験をしてほしいですね。
ここで言う体験は、周りのちょっと驚いた視線だったり、鏡に映った自分だったり、あるいはキャラクターの名前で声を掛けられた時のちょっとした喜びであったり。その写真をSNSにアップした時の周りの反応や、そこで知り合った友だちと会話が生まれた時の刺激、新しい友だちができる、誰かに大事にしてもらえるという、小さな体験ですね。
それが成功体験であれば嬉しいですが、そうでないこともあるかも知れない。ただ非日常と日常が結びついた曖昧なイベントで生まれた体験とそこから生まれる関係。この2つをユーザーに持ち帰ってもらうことは、とても大きな意味を持っています。

――実際やってみないと、その楽しみはわからないでしょうね。

柴田 昭さん:やってみないと本質までたどり着かないと思います。

――単に眺めている人たちは体験をしている訳ではないですからね。その違いは大きいですね。人生そのものかも知れません(笑)。
ビジネスとしては、90万人のコスプレ人口を増やして行きたいという考えですか?

柴田 昭さん:その通りです。何年掛かるかわかりませんが、日本の人口の4%以上のユーザーを生み出すことを目標にしています。

――4%というのは、どういう根拠ですか?

柴田 昭さん:特にエンターテイメントのビジネスでは人口の4%以上のユーザーがいれば、市場として成り立つと言われているからです。ただし4%のユーザー確保ではなく、創出ですね。これを私たちが牽引して行きたいと考えています。

――海外展開も加速されるんですか?

柴田 昭さん:現在私たちは『世界コスプレサミット』の日本代表を選出する仕事をしていますが、多くの国の大会関係者との交流が生まれています。さらに日本での留学や就業ビザを持つ人も増え、その流れはこれからも加速するでしょう。その人たちが帰国し、ハブとなってさらなる交流が促進されると思います。
ただ勘違いをしてはならないことは、だからといって日本がスゴイ訳じゃないんですよね。日本人は日本や自分たちをスゴイと思いたがっていますが、すごく危険です。もっともっと魅力的なコンテンツを生み出したり、もっと海外の人たちに好きになってもらうために、数十倍も努力しないとあっという間に飽きられてしまいます。今は来てもらって「ありがとう」という関係を築けていても、「ありがとう」が「当たり前」になってしまったらその時点で非日常や体験ではなくなってしまう。
多分そうなってしまうまで、あと何年も掛かりませんね。新しいものを生み出したり体験や関係というものを多くの人たちと共にもてるよう努力をしていかないと、今の広がりを維持継続することはできません。

――これから何をして行きたいですか?

柴田 昭さん:やはりきちんとした市場を創ることが第一。そのためのネットワークづくりを、ユーザーや事業者と手と手を取り合って進めて行きたいと思います。
並行してサービスをきちんとカタチにしたい。日本中どこでも同じクオリティで楽しめつつ、地産地消で特色を活かしたイベントを、全国の街で定期的に行なえるようにしたいと思っています。
そしてやる以上は一番になりたい。売上や動員数もそうですが、何よりも大事なことはユーザーに愛されるサービスを続けることだと思っています。

――子どもの頃はどんなお子さんでしたか?

柴田 昭さん:小さい頃からこんな感じでした(笑)。屁理屈ばかり言ってましたね。

――この池袋の辺りは庭みたいなものでしたか?

柴田 昭さん:そうですね。豊島区を中心とした地域ですね。小学生の頃からサンシャイン通りで遊んでいました。

――人生は予想外に展開してきた感じですか?

柴田 昭さん:まったく思ってもいませんでしたね。コスプレと出会うまでは真逆のアーティスティックでファッショナブルなアパレルと関係の強い世界でご飯を食べていこうと思っていたので。180度違うこの世界でこれだけ水が合うとは思わなかった。
人生は何があるかわからないし、わからないで出会うことの中にこんなにいいことがあることを、若い人たちや目標を持てずにいる人たちに伝え、同じように頑張れる仲間を増やすことが私の個人的な目標です。

――子どもたちを見てどう感じますか?

柴田 昭さん:正直、今の子どもたちの方が賢くてエライですよ。僕達が小さかった頃はあんなにちゃんとしゃべれませんでしたからね(大笑)。

――私も同じような感覚ですね。大人たちよりもある意味しっかりしています。

柴田 昭さん:子は宝。宝に対して後ろ向きな感情は抱かないですね。ただ心配なのは、それを指導する親の方ですね。

――親の方が心配?

柴田 昭さん:そうですね。それでも子どもたちがちゃんとしているので大丈夫だと思いますが(笑)。

――子どもたちにしてもらいたいこと、伝えたいことはありますか?

柴田 昭さん:「子ども」っていうのは現代っ子という意味でいいですか?

――いいですよ。

柴田 昭さん:現代っ子の共通点は責任感が強いということですが、反面“べき論”に囚われている若者が多いと思います。なぜなら私自身がそうだから。油断するとすぐに“べき論”が鎌首をもたげてしまいます。私の周りもみんなそうですね。“べき論”が世の中の空気を支配してしまっている気がします。もっと自由な発想で、ある意味もう少し無責任でもいいんじゃないかと思います。そういうことを知らないとつまらなくなりますよね。

――他の人に対する寛容性が乏しくなりますよね。

柴田 昭さん:まったくその通りですね。「責任」って言葉は押しつけがましいですよね。一見、責任を全うしているから凄くカッコ良く見えちゃうんだけど、ただ誰しも必ずゆとりとか余裕とか白紙の部分を持っているので、その部分を殺すことになるし、さらに嫌な言い方になりますが、最低限の責任を全うしているから、多少ズルくてもいいという感覚が生まれがちなんですよね。私自身がそうですから。
「やることやってるからいいでしょ」と、人間が小さくまとまってしまう感じで、凄く寂しいですね。

――自分を抑圧しがちですよね。責任という言葉で置き換えてしまっているから、抑圧の反動で他を強制したり許容力を失ってしまったり。

柴田 昭さん:大げさかも知れませんが、大多数を占めていると思います。

――今日のお話しの中のキーワードの一つが体験です。私自身32歳の頃に突然、新聞の片隅から『人生は体験である』という言葉が飛び込んできて、未だにそれを超える言葉にお目にかかっていません。
人生の意味や目的を求め歩いたり、自分探しに出掛けたりする人が多いですが、体験する素晴らしさこそが人生そのものの素晴らしさだと思って生きてきて、それ以外に何があるんだと思っています。
生きていることを実感すること以外に何もないですよね(大笑)。

柴田 昭さん:体験は想い出になる。その繰り返しですね。

――死ぬ前に笑えるか。その一瞬のためにあるのかも知れません。捏ね繰り回して考えたり、論理的に追い求めてもわからないですよね。人間は自分のことすらわからないし、思い込みで生きている。
その意味で、コスプレには心理的な作用が強く働くような気がしていて、心理療法や精神療法などとコスプレが結びついて新たな発見に繋がる可能性があるかも知れません。

柴田 昭さん:すでにそういう研究をされている方がいらっしゃいます。
ただ個人的には、本当にコスプレが誰かを救うきっかけになるのであれば、学術的なものや医療的な観点から切り離してどうかこのままでいさせてほしい。この現状が一番合っているような気がするので。

――確かにそうかも知れません。ところで仕事は楽しいですか?

柴田 昭さん:楽しいですね!これと出会っていない人生は想像がつきません。

――やっぱり仕事が楽しいという人が増えてほしいですねよね。

柴田 昭さん:本当にそう思います。

――“コスプレという遊び”というお話しから、こんなにディープな話題に発展するとは思いませんでした(笑)。とても楽しいお話しをありがとうごじました。

 

遊びが仕事、仕事が遊び。
ではない。

遊んでもらう仕事。
思いっきり楽しく遊んでもらう仕事。
楽しんでもらうことに、こらえきれないほどの楽しさを感じている。

そんな柴田昭さんは楽しい人でした。そして未来を見つめている人でした。

柴田さんのような大人が増えれば、子どもたちも笑顔いっぱいになるのでしょう。

笑ってろ、大人。

それだけで、救われる子どもがいる。

 

■ 柴田 昭さんのプロフィール

式会社ミネルバ代表。1980年生まれ。
2006年、コスプレと出会いユーザーとして参加。同年12月に有志でコスプレイベントを初開催。2009年、コスプレを中心としたポップカルチャーの催事とプロモーションを行うため株式会社ミネルバを設立。現在は幾つかの法人で役員を務めるとともに、ポップカルチャー専門家としてコンサルタントや講演を行っている。猫とかわいいキャラクターが好き(最近はJ:COMオリジナルキャラクター「ざっくぅ」が推し)。

 

株式会社ミネルバ

コスプレイベントCOSSAN公式サイト

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